人事・労務部門向けセミナー「ストレスチェック実施後の従業員のケアと職場環境の改善」大盛況で終了

人事・労務部門向けセミナー「ストレスチェック実施後の従業員のケアと職場環境の改善」大盛況で終了

Nature Serviceは、長野県信濃町の委託を受けて、自然環境下における従業員のリモートワークが企業のメンタルヘルスマネジメントにどう貢献できるかを測定する実証実験(タイトル:「脳波測定による、自然体験が寄与する企業経営課題解決への実証実験」)を昨年12月より進めています。今回は、その一環として、2月3日、東京都内にて、人事・労務部門向けセミナー「ストレスチェック実施後の従業員のケアと職場の環境改善 〜医学的見地からの健康経営への取り組みと、生産性向上に向けて新たな選択肢〜」(主催:長野県信濃町、Nature Service)を開催しました。平日の午後の開催でしたが、会場が満席になる程多くの方にお越しいただきました。

冒頭、主催の長野県信濃町から、産業観光課「商工観光・癒しの森係」主事・清水悠介さんに開会のご挨拶をいただき、信濃町が「自然体験と労働者の生産性向上」というテーマに基づきNature Serviceに事業委託をしていること。そして、信濃町は、森林浴に科学的根拠を持たせた「森林セラピー」を活用した「癒しの森事業」を進め、企業の研修やメンタルヘルス対策として町と協力して研修を実施する「癒しの森協定」を結び、現在32の団体と契約をしていること。今日のセミナーでメンタルヘルス等への理解を更に深め、信濃町の事業をメンタルヘルス対策の1つとしていただきたいとする旨のお話しいただきました。

田中教授公演中の様子

田中教授公演中の様子

講演1|「ストレスチェックの結果分析と職場の健康経営の今後 〜ストレス対策とパフォーマンス向上のために何をすればよいのか?〜」 田中克俊教授(北里大学大学院産業精神保健学)

まず、ストレスチェック制度の基本的な考え方は、労働者のメンタルヘルス不調を未然防止する一次予防を目的としたものであると話されました。メンタルヘルスの不調には、薬だけでないアプローチを突き詰めることが予防になるのだそうです。

メンタルヘルス対策は世界中で研究が続けられてきているところですが、睡眠、認知行動療法、環境を変えることの3つの予防策があるとのこと。

それを考える上で、まず理解しておきたいのが「こころの成り立ち」の仕組みで、こころは、心理社会的要因と脳の働きが相互に作用するもの。脳の疲れを取るには、寝ている間の睡眠と、起きている間に、様々な脳の部分を使うことが、効果があるのだそうです。

また、うつ病の患者の脳には、脳の血流や代謝が低下していることが見られるとのこと。またBDNF(神経栄養因子)という神経の新生を促し、セロトニンなどの神経伝達物質を増やす神経間ネットワークを強固にする因子が不足しているとする仮説があることから、こころの回復のためには、心理社会的支援と脳の機能回復の両方が必要であり、脳の機能回復には、睡眠・運動・栄養が必要であることとされました。

労災の審査も担ってきている田中先生によると、労災などのケースにまでなる事例では多くの場合、不眠症が介在しているそうです。不眠症の対策には、認知行動療法が良く、睡眠は、スキルであり、1時間半程度の研修で習得できるものだそうです。

「病気は夜つくられる」という言葉があるように、深い睡眠をとっている間に、免疫の働き、神経の働き、ホルモンの働きを整えるので、深い睡眠がないといろんな病気になるとのこと。

そして、睡眠だけでなく、運動療法を行うと、その効果として、脳の前頭前野や海馬の血流の増加、脳のBDNFの増加、眠りを深くし、食欲を改善することができます。そして、認知行動療法を用いたストレスマネジメントを行うことで、日常的な考え方の変化ももたらすことができます。

脳の働きは環境や考え方によって影響するものです。認知行動療法による日常的な考え方の変化、睡眠、運動により、薬以外で十分に良い方向に持っていけることがお話されました。

木村理沙医師の講演中の様子

木村理沙医師の講演中の様子

講演2|「自然体験と癒しのメカニズム」 木村理砂医師(Momo総合医療研究所所長)

まず、慢性的な病気には薬の必要性もある一方、本来的な予防を考える上では、森林セラピー、自然体験、自然環境下でのリモートワークなど非薬物的なアプローチが有効であることを提案していきたいとされました。

医学の父、ヒポクラテスも「自然から遠ざかるほど病気に近づく」と話しているとおり、自然と健康は昔から関連が深いとされています。

自然は、視覚、聴覚、触覚、嗅覚、味覚の五感を使う場所です。

そして自然には、せせらぎの音、木の葉を揺らす風などの「1/f ゆらぎ」があり、その心地よさは癒しの効果があります。メンタルヘルスは、精神疾患の早期発見・早期介入、自殺予防、求職者の減少にとどまらず、パフォーマンスの向上や生産性の向上に繋がります。

さらに、自然の中で注意力の回復や想像力低下の回復が見られるといった調査も行われており、睡眠、認知行動療法とあわせて、自然の利用も一次予防になるとのお話でした。

講演中の様子

講演中の様子

パネルディスカッション|「メンタルヘルスを向上させる自然環境下でのリモートワークの可能性」

基調講演の講師2人に加えて、森林セラピー専門家をパネリストに招き、自然環境に囲まれた場所でのリモートワークが、従業員のメンタルヘルスや企業の生産性向上に活かせるか、について議論が行われました。

Nature Service共同代表の赤堀哲也は、15年間企業の経営をしてきた経験から、以前にうつ病の職員が出て、同僚も部署も苦しんだ際に、「運動しよう、よく寝よう」といっても、上手くいかなかった体験談を話し、その時思い切って、夜8時に社内のネットワークを切断するのが一番効果的だったと話しました。ネットワークを切断してしまえば、メールチェックもフォルダアクセスもできません。「社長はなぜ社員の仕事を邪魔するのか」という社員も初めはいました。しかし、ネットワークを切断するようにして以来、うつ病患者は出なくなりました。こういうことは、決裁権がある人にしかできない対策であると話しました。

長野県・森林セラピーアドバイザーの浅原武志氏は、森林セラピーが良いことがわかっても、社内で「あいつ信濃町送りになった」と言われてしまうような事態は避けなければならない。これには、組織ぐるみの取り組みが必要であり、新入社員研修、二年次研修、フォローアップ研修、エルダー研修などを場面に応じて活用することで、信濃町のセラピーでは、10年付き合ってきた企業からは離職率が減ったと言われるまでになっている。また、成長度を見守る人間が企業の外部にいるのも良いことで、2年目研修に感じることができるのだとされました。

パネルディスカッションの様子

パネルディスカッションの様子

会場との質疑では、「嫌がる人を森に連れて行くのが良いのか?他の趣味でも効果があるのではないか?」という質問が出されました。

これに対して、田中教授は、環境が変わると脳の働きが変わること。環境、気圧、天気、匂い、その全てを受けて、脳や心臓の働きが変わるのだと話し、強制ではなく、目的地までの行き方、参加の方法に工夫があれば良いのではないかと答えました。

まとめ

今回のセミナーは、企業の人事・労務担当者を対象に、ストレスチェック義務化後のメンタルヘルスマネジメントはいかに進めていくべきか、について理解を深めてもらい、生産性向上に向けた新たな選択肢として、自然環境の活用について関心を持っていただけるセミナーとなりました。

「寝る力」はスキルであり、鍛えること、教育することで、不眠・うつは防げるという田中教授のお話、五感を使う自然を非薬物的アプローチとして活かす可能性についての木村医師のお話は、大変印象に残りました。

なお、Nature Serviceでは自社のメンタルリスクマネジメントの一環として、実証実験に参加協力する企業を募集しています。ご興味お持ちの企業の方は、ぜひご連絡ください。

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